日経サイエンス  2019年9月號

特集:恐竜 その姿と動き

恐竜たちの走りを再考する

出村政彬 古田彩(ともに編集部) 協力:宇佐見義之(神奈川大學) 平山廉(早稲田大學) 久保泰(東京大學総合研究博物館)

「逃げろ!もっと速く!」唸るジープのエンジン。負傷した數學者のマルコム博士と悲鳴を上げる古植物學者のサトラー博士を乗せた車を,現代に蘇ったティラノサウルスが猛然と追いかける。恐竜映畫の金字塔『ジュラシック?パークⅠ』(1993年公開)の一幕だ。その後,ティラノサウルスは走れなかったとする研究結果が2002年に公表されて大きな注目を集めた。一方,バイオメカニクス(生體力學)を用いた研究結果はティラノサウルスが俊足だった可能性を示している。恐竜の本當の姿と動きについての解明はまだ途上にある。ティラノサウルスの走りについての議論は,まさにその好例だ。

自動車と競爭するようにして走るティラノサウルス(下記映像)。もちろんCGだが,その速さには根拠がある。數理生物學が専門の宇佐見義之?神奈川大學準教授がシミュレーションによってティラノサウルスの速さの上限値を算出したところ,秒速14.1m(時速約51km)と出た。筋骨格モデルをコンピューター內の仮想空間で走らせて得た結果だ。現生の動物たちの重さと速度の関係をグラフ化すると,6tの巨體で時速40?50kmのスピードを出す運動能力が,決して例外ではないことがわかってきた。

ティラノサウルス以外の恐竜たちにも注目しよう。時速60km以上で走ったとされるオルニトミムス(「ダチョウ恐竜」という別名もある)や時速50km程度で走った可能性のあるデイノニクスなどをはじめ,彼らは非常に躍動的な動物だったようだ。恐竜が速く走れるようになったのは「二足歩行の進化と関係がある」と東京大學総合研究博物館研究員の久保泰は話す。恐竜たちが移動するときの足の使い方を丹念に分析すると,踵を高く上げて指先だけを地面につけて歩く「趾行(しこう)性」が恐竜たちの速さのカギを握っていることが明らかになってきた。

関連動畫:ティラノサウルスの走りのシミュレーション映像:宇佐見義之

協力 宇佐見義之(うさみ?よしゆき)/平山廉(ひらやま?れん)/久保泰(くぼ?たい)
宇佐見は神奈川大學工學部準教授で,専門は數理生物學。著書に『カンブリア爆発の謎』(技術評論社,2008年)など。平山は早稲田大學國際學術院教授の古生物學者。カメ類の系統進化や機能形態學を専門とする。久保は東京大學総合研究博物館日本學術振興會RPD特別研究員。専門は古生物學,進化生物學。動物の歩き方の進化について研究している。

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