日経サイエンス  2019年4月號

特集:分斷の心理學

コミュニケーションギャップの処方箋

石戸 諭(ノンフィクションライター)

科學的に確かな根拠に基づいて説明を盡くしているのに,一向にわかってもらえない──。そんなふうに感じたことのある人は少なくないだろう。特に醫療の現場では,それはしばしば深刻な結果をもたらす。なぜ科學の説明は屆かないのか。ギャップを埋めるためには何が必要なのか。それを探るため,ある研究が始まっている。


きっかけは2014年の日本行動醫學會で開かれたシンポジウムだった。行動経済學研究で知られる大阪大學教授の大竹文雄が登壇し,醫師らとの討論に參加した。依頼したのは,臨床心理學の研究者で同大準教授の平井啓だ。大竹は討論で,醫療現場が前提としている人間の「合理性」に疑問を投げかけた。行動経済學では,「人間は常に合理的な意思決定をする」との想定を置かない。醫療現場を例に取ると,従來の経済學は「醫師が正しい情報を十分に提供すれば,患者は合理的な意思決定ができる」と仮定している。醫療現場も,基本的には同じ想定で動いている。一方,行動経済學では「人間には様々なバイアスがあり,合理性は限定的。醫師が同じ情報を提供しても,表現方法や伝え方次第で,患者の意思決定も変わる」との前提に立つ。

 

行動経済學を醫療の現場で応用できないか。大阪大を中心に,経済學,心理學,醫學の研究者という異色の組み合わせで議論が始まった。

著者

石戸 諭(いしど?さとる)

記者?ノンフィクションライター。1984年生まれ。毎日新聞社,BuzzFeed Japanを経て獨立。著書に『リスクと生きる,死者と生きる』。

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